やみくもな「在宅」の推進はゆとりも雇用も減らしてしまう
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気がついたら3日もたってました。なんだか長期戦になってきまして、ほんとすんません。まだ付き合ってくれてる方、ありがとうございます。
はじめの記事に載せました「skyk的結論」の(2)-1までの解説が終わったとこです。今日は(2)-2からがんばってます。
この辺の話はやる夫にはまったく出てきません。やる夫では、マクロでしか考察を進めていませんが、実際に降りかかってくる負担というのは、今日の話くらいの「生活のレベル」で考えることも必要だと思います。
改めていうけど「介護はたいへん」
在宅で介護というと、とかく「家族の愛」的な気分になりやすいですが、はっきり行って介護というのは大変です。
移動、排泄、整容、更衣、食事、入浴の6つを「ADL(activities of daily living:日常生活動作)」と呼びますが、在宅介護に踏み切るかどうかを判断する一つの基準に「排泄の自立」があります。
入浴は介助が非常に大変ですが、(賛否両論あるでしょうが)週に1〜2回まで回数を減らすことも可能ですから、デイサービス時や訪問入浴に任せることができます。だから、無理に素人である家族がマスターしなければいけない技術ではありません(入浴介助は大変ですから、このような前提に立てるのは介護保険の成果です)。
整容・更衣、食事は回数が限られていてスケジュールの予測が立ちますから、出勤前後の家族でも何とか対応可能ですし、場合によってはヘルパーさんを頼むこともできます。
しかし、排泄は「出物腫れ物ところ嫌わず」ですから、いつ行きたくなるか分かりません。そうなると、排泄が自立しないまま自宅に帰るためには、必ず家族の誰かが家にいて、すぐに介護に対応できることが必要になります。どんなに譲っても、外出の用事を2〜3時間で済ませられるぐらいでないといけません*1。
そしてもちろん、適切な排泄介助の技術を身につけておかないと、介護するほうもされるほうもものすごく大変です。
移動に関しては、歩行であっても車椅子であっても、完全に自立することは本人さんのQOL(quality of life:生活の質)を高めます(自分が行きたい時行きたい所に「いけない」というのは、ものすごく不便なことですから)。しかし、移動能力はあっても本人さんが自分で自分の安全を確保できない場合、介護者は「行動に気を配って安全を確保する」必要が出てくるため、介護のための拘束時間はさらに増えます。
自分で自分の安全を確保できない場合、とは「認知」に問題がある場合です。いわゆる「認知症」ではなくても、脳卒中の後などに注意力が散漫になる方もいて、自分でしよう、手伝おうと思ってする行動が、転倒などの危険行動につながりやすくなったりします。いわゆる「認知症」の場合は、むしろ移動能力が十分であるほど、家族は一時も目が離せなくなります。危険な行動をとめようとすると、興奮してしまったりもするため、対応には専門的な技術と忍耐力=時間が不可欠となります。
こうなってくると、介護者は、介護以外の仕事がほとんどできなくなります。
つまり、在宅介護というのは、基本的に家にいることができる家事専従者(伝統的には妻・嫁・娘)が家族に一人はいて、「家族愛」があれば、短期間で十分なレベルの介護技術を身につけられるはず、という前提に立っているということもできるのです。
在宅介護は「アンペイドワーク」
さてみなさまは、アンペイドワークという言葉をご存知でしょうか。
直訳すると「unpaid work=金にならない仕事」。家事や育児、介護などの家庭内の仕事や地域活動など、私たちの生活に必要ではあるけれど、お金にならない仕事のことです。反対に、お勤めをしてお給料をもらう仕事をペイドワークといいます。
以下の参考リンクに、ペイドワーク・アンペイドワークをはじめとした生活時間の分類がありますので、興味のある方はご覧ください。
参考)クリックで拡大します
元文献太田美音 さらなる利活用を目指して−平成18年社会生活基本調査の集計及び13年社会生活基本調査特別集計から−『統計』2006/7←PDFです
で、在宅介護というのは、アンペイドワークに入ります。
一口に在宅介護といっても、ちょっと身の回りのことを手伝ってあげるくらいの実質20分程度のライトな介護から、断続的に24時間かかわり続けるようなヘビーな介護まで、家族がする限り一銭のお金にもならないのです。
それにしたって私たちは忙しい
太田美音 さらなる利活用を目指して−平成18年社会生活基本調査の集計及び13年社会生活基本調査特別集計から−『統計』2006/7←PDFです
男性がペイドワーク、女性がアンペイドワークに偏る傾向があるものの、25歳〜55歳のオトナは、週の約40%を何らかの仕事(ワーク)に費やしています(週で統計しているので、土日も平均化されています)。
ちなみに、さらに約40%を占める個人的ケアには睡眠・食事・整容など身の回りのこと、生活するうえで欠かせない活動が含まれます。
仕事も身の回りのこともしていない自由な時間は、約20%程度にとどまります。
このような生活時間配分の中、さらに介護をするとなったら、自由時間か睡眠時間を削るしかありません。
生活時間についての調査を行っている統計局のホームページに、こんなデータが出ています。
統計局ホームページ/夫と妻の仕事、家事・育児、自由時間の状況 −「男女共同参画週間」にちなんで−
共働き夫婦を対象とした調査で、末っ子がまだ3歳にならない子供のいる家庭では妻の自由時間が2時間ほど減り、末っ子が15歳を越えて手がかからなくなるとまた自由時間が増えます。
子育てをしている間は、自由時間というゆとりが明らかに減っているのが良く分かります。
子育てや在宅介護というのは、愛があれば何とかなるものではなく、家族の中から何とかして「お金にならない時間」をひねり出さなければいけないものなのです。
北欧諸国では「子育て」「介護」を公共事業にした
このように「お金にならない」アンペイドワークである子育て・介護を、お金になるペイドワークに変えたのが、北欧諸国でした。
1970年代のアメリカやイギリスなどのアングロサクソン諸国や北欧などでは、今の日本が直面しているのと同じように、若年男性の雇用が悪化し「男性一人の収入で」妻子の生活をまかなえる見通しが立ちにくくなりました。
そこで北欧諸国では、公的に子育て・介護サービスを整備し、そこに積極的に女性たちを雇用していったのです。アンペイドワークとして家庭の中に縛られていた仕事を公共事業化することで、女性の雇用機会と働き続けるための育児・介護サービスを同時に提供したわけです*2。
北欧ではこうだったから、という「ではの守」論ではいけませんが、少なくとも現状のまま「本人の願い」「家族愛」程度の論拠でやみくもに在宅介護を推し進めれば、世帯構成人数が少なくなっている若者世代の「介護負担」は大変なものになります。今、介護に突入している世代は、まだ終身雇用時代の安定の貯金があるからなんとかなっているのです。
すんません、まだつづきます。
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